Grand green
過敏性腸症候群(IBS:Irritable Bowel Syndrome)についてお悩みの方へ、当院での診療経験を踏まえて詳しくご説明いたします。IBSは決して珍しい疾患ではなく、日本人の約7人に1人がIBSの症状を抱えているとされています。適切な診断と治療により症状の改善が期待できますので、まずは疾患について正しく理解することから始めましょう。
過敏性腸症候群は、消化管に明らかな器質的異常が認められないにもかかわらず、慢性的な腹痛や不快感、便通異常(下痢、便秘、またはその両方)が繰り返される機能性消化管疾患です。当院では、この疾患の診療において次の特徴を重視しています。
・腸管に構造的な異常はないものの、機能的な問題により症状が現れる
・ストレス、食生活、腸内細菌のバランスの崩れ、腸管運動の異常、遺伝的要因、内臓の知覚過敏、免疫系の異常などが関連している
・生命に直接関わる疾患ではないが、生活の質(QOL)に大きな影響を与える
私たちが診察する患者さんの多くは、腹痛と排便に関連した症状で長期間お困りになっているケースが多く、脳腸相関を軸に解明が進んでおり、下部消化管運動亢進、内臓知覚過敏、不安・うつ・身体化の心理的異常がしばしば生じることが明らかになっています。
・腹痛や腹部不快感が排便により改善することが多い
・便の形状や排便頻度の変化を伴う
・ストレスや緊張により症状が悪化しやすい
当院では、国際的な診断基準である【Rome IV基準】を用いて診断を行っています。Rome IV基準という国際的な診断基準に基づいて行われ、繰り返される腹痛が少なくとも3ヶ月間、週に1回以上起こり、腹痛が2つ以上の特定の条件に関連している必要があります。
診断には以下の条件を満たす必要があります
・最近3ヶ月の間で週1回以上の腹痛が生じている
・その腹痛が以下の2つ以上に関連している
・排便により軽快または悪化する
・排便頻度の変化で始まる
・便形状の変化で始まる
・少なくとも6ヶ月前から症状が存在している
当院では、症状に応じて4つのタイプに分類し、適切な治療方針を決定しています
・便秘型(IBS-C):硬便が多く、排便困難を主症状とする
・下痢型(IBS-D):水様便や軟便が多く、便意切迫感を伴う
・混合型(IBS-M):便秘と下痢が交互に現れる
・分類不能型(IBS-U):上記のいずれにも分類されないもの
私どもの診療では、「陽性診断」のアプローチを重視しています。IBSの診断で最も大事な考え方は「陽性診断」です。つまり「他の病気を全部否定したからIBS」ではなく、「IBSの特徴的な症状パターンがあるからIBS」と積極的に診断する方針を採用しています。
・問診と身体所見:症状の詳細な評価と警告症状の有無を確認
・血液検査:炎症反応や甲状腺機能の評価
・便検査:便潜血、感染性腸炎の除外
・画像検査:必要に応じて腹部単純X線撮影
・内視鏡検査:50歳以上や血便のある方では大腸内視鏡を検討
・大腸がん
・炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)
・セリアック病
・甲状腺機能異常
・感染性腸炎
当院では、段階的な治療アプローチを採用しています。過敏性腸症候群の治療は、病態の理解と食生活・運動を中心とした生活習慣の改善の上に、消化管を標的臓器とする薬物療法、中枢薬理、心理療法という順番で実施することが推奨されるという方針に基づいて診療を行っています。
・規則正しい生活リズム:睡眠時間の確保と起床時間の統一
・ストレス管理:リラクセーション法の指導と環境調整
・適度な運動:ウォーキングや軽い体操の推奨
・基本的な食事指導:規則正しい食事時間と栄養バランス
・刺激物の制限:香辛料、アルコール、カフェインの調整
・食物繊維の適切な摂取:症状に応じた調整
症状の程度とタイプに応じて、適切な薬剤を選択いたします。
当院で処方する主な治療薬について、各症状タイプに応じてご説明いたします。
高分子重合体(ポリカルボフィルカルシウム)
胃ではほとんど膨張せずカルシウムが遊離し、小腸・大腸のような中性~弱アルカリ性条件下では、大量の水分を吸収し膨潤・ゲル化することで水分吸収を抑制して保水作用を示すため、便の水分量を適切に調整します。
プロバイオティクス(整腸剤)
・腸内細菌叢の改善により、症状の緩和が期待できます
・安全性が高く、長期間の服用が可能です
5-HT3受容体拮抗薬(ラモセトロン)
腸管蠕動運動の活発化や腸管水分輸送異常の改善を促し、下痢を抑制し、便形状や便意切迫感を改善させます。さらに腹痛や腹部不快感など内臓知覚過敏を改善する効果もあります。
抗コリン薬
腸管運動の過度な亢進を抑制し、腹痛の軽減に効果があります。
上皮機能変容薬
従来の便秘治療薬とは異なる作用機序の便秘治療薬が利用可能になっています。クロライドチャネルアクチベーター(アミティーザ®)やグアニル酸シクラーゼC受容体作動薬(リナクロチド:リンゼス®)や胆汁酸トランスポーター阻害薬(グーフィス®)が上皮機能変容薬にあたります。
私たちの経験では、食事療法は症状改善において非常に重要な要素です。特定食物で症状が起こりやすい患者さんはその回避により症状が改善する場合がありますので、食生活を振り返ることが解決の鍵となることがあります。
・規則正しい食事時間:1日3食を決まった時間に摂取
・適切な水分摂取:特に下痢型では脱水予防が重要
・食物繊維の調整:便秘型では増量、下痢型では制限を検討
・高脂肪食品
・刺激の強い香辛料
・カフェインを多く含む飲料
・アルコール
・炭酸飲料
FODMAPは小腸での吸収が非常に悪く、多く食べることで腸内に過剰に貯まり、その浸透圧で水分を腸管内に引き込み、腹痛、下痢などの症状を引き起こすとされています。当院では、症状に応じて低FODMAP食の指導を行っています。
IBSの治療において、心理的な要因への対処は欠かせません。当院では、必要に応じて心療内科との連携も行っています。
・リラクゼーション法:深呼吸法や筋弛緩法の指導
・認知行動療法:症状に対する考え方の修正
・生活環境の調整:ストレス要因の特定と対処法の検討
薬物療法が効果を示さなかった場合に推奨されることがあり、これらの治療は、心療内科やメンタルクリニックと協力して診療にあたります。
当院での診療において、患者さんに特にお伝えしている注意点をご紹介します。
IBSは慢性的な疾患で、完全な治癒が難しい場合もありますが、適切な治療と管理により症状をコントロールし、生活の質を向上させることができます。
・排便の回数と便の性状
・腹痛の程度と持続時間
・食事内容と症状の関連
・ストレスを感じた出来事
・服薬状況と効果
・症状の変化を定期的に評価
・薬剤の効果と副作用の確認
・生活習慣改善の継続状況
・新たな治療選択肢の検討
症状が変化した場合や、新しい症状が出現した場合には、改めて他疾患との鑑別を行うことが重要です。
過敏性腸症候群は、現代社会において多くの方が悩まされる疾患ですが、適切な診断と治療により症状の改善が期待できます。当院では以下の点を重視した診療を行っています。
・正確な診断:Rome IV基準に基づいた的確な診断と他疾患の除外
・個別化された治療:患者さん一人ひとりの症状や生活状況に応じた治療計画
・包括的なアプローチ:生活習慣改善、食事療法、薬物療法を組み合わせた治療
・継続的なサポート:長期的な視点での症状管理とQOL向上
IBSの治療は一朝一夕に完了するものではありませんが、私たちと一緒に取り組むことで、必ず症状の改善と生活の質の向上を実現できます。症状でお困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。