Grand green
ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)とは、胃の粘膜に生息するらせん状の細菌で、胃や十二指腸潰瘍、慢性胃炎、胃がんといった病気の発生原因の一つといわれています。ピロリ菌は酸が強い胃の中でもウレアーゼという酵素を作り出すことにより、周囲の酸を中和し、生息することができます。
私が診療で最もお伝えしたいのは、WHOは疫学的調査からピロリ菌を確実な発がん物質と認定しているということです。
・成人では一度感染すると自然に除菌されることはほとんどない
・【胃がんの原因の90%以上】がピロリ菌感染によるもの
・日本人の感染率は年齢により大きく異なる
・若年での除菌ほど胃がん予防効果が高い
感染経路は現在も明らかになってはいませんが、衛生環境が整備されていない時代や地域などの経口感染によると考えられています。そして、感染するのは主に5〜6歳以下の幼児です。
・慢性胃炎(感染者のほぼ100%)
・胃潰瘍・十二指腸潰瘍
・胃がん
・胃MALTリンパ腫
・特発性血小板減少性紫斑病
ピロリ菌の感染を調べる検査には複数の方法があり、それぞれ特徴が異なります。当院では患者さんの状態や目的に応じて最適な検査方法を選択しています。
検査は大きく「内視鏡検査を伴う方法」と「内視鏡検査を伴わない方法」に分けられます。
・迅速ウレアーゼ試験
・鏡検法(組織診断)
・培養法
・【尿素呼気試験】(最も推奨される方法)
・血中抗体検査
・便中抗原検査
尿素呼気試験は特に正確さが高く(感度、特異度95%)、尿素呼気試験(UBT)は、簡便で安全であり、各国ガイドラインでも最も信頼性の高い診断法と位置づけられています。
・【患者さんに負担をかけない】安全な検査方法
・【高い診断精度】を持つ
・薬剤を服用し、服用前後の呼気を採取するだけ
・検査時間は約30分程度
検査は原則、空腹時に検査します。検査前までの8時間以上、食事をとらないでください。①普段通りの呼吸(深呼吸でない)をし、息を吸った状態で10秒間止めます。②専用パックに息を吹き込みます。③検査薬を服用します。〜検査薬服用後〜④左側を下にして、5分間横になります。⑤その後、15分間座って待ちます。⑥もう一度、専用パックに息を吹き込みます。
尿素呼気試験(UBT)による除菌判定においては、特にプロトンポンプ阻害剤(PPI)を服用している方に対する注意が必要となります。プロトンポンプ阻害剤(PPI)や抗菌薬などピロリ菌に対する静菌作用や抗菌活性のある薬剤の使用がある場合は、偽陰性を防ぐためにも、少なくとも2週間、できれば4週間中止することが望ましいとされています。
従来の標準的な1次除菌はPPIまたはP-CABにβ-ラクタム系抗菌薬アモキシシリン (AMPC)、14員環マクロライド系抗菌薬クラリスロマイシン (CAM) を加えた3剤併用療法が基本だったが、本邦では他国に先駆けてP-CABが承認されたこと、PPIベースの3剤併用療法に比してP-CABベースの3剤併用療法の除菌率が高いことを踏まえ、2024年改訂版では、P-CABであるボノプラザン (VPZ 商品名:タケキャブ®) を軸にした3剤併用療法の使用が推奨された。
・1次除菌:【胃酸分泌抑制薬】+【アモキシシリン】+【クラリスロマイシン】
・治療期間:7日間
・1日2回の服薬
・一次除菌が70~80%の成功率
1次除菌が失敗した場合、2次除菌を行います。二次除菌までで一次除菌と合わせて97〜98%の成功率です。
・クラリスロマイシンをメトロニダゾールに変更
・その他の薬剤は同様
・成功率は約90%
保険診療での除菌治療を受けるためには、以下の条件が必要です:
・内視鏡検査でピロリ菌感染の確認
・慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍等の診断
・ピロリ菌感染の検査で陽性
除菌にともなう皮疹は薬疹ではなく、大量に死滅したヘリコバクター・ピロリ菌から放出される細菌内毒素が血液に混入することによるJarisch-Herxheimer 反応である。
・皮疹や下痢などの副作用が起こる可能性
・『確実に7日間』服用を継続することが重要
・服薬中の体調変化は速やかにご相談を
除菌の成否は、その後の方針を決めるためにも必要な情報です。それにもかかわらず、ピロリ菌治療の除菌判定が行われていない場合がいまだに少なくないことが問題となっています。
当院では以下の方針で除菌判定を行っています:
・原則として除菌後の患者さんを放置することはしません
・他の医療機関で除菌療法を受けた方の除菌判定も行います
・除菌判定を除菌療法終了後、8週間以降に行っています
ガイドラインでは、すべての治療が終了した後、4週間以上経過してから、ピロリ菌除菌に成功したのかどうか、除菌判定を行う必要があります。この根拠は、除菌後1ヶ月経つと95%以上の症例で菌体数が回復するためです。
・最低4週間後から可能
・当院では【8週間後】を推奨
・より精度の高い判定のため
日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは除菌療法後の除菌判定として、尿素呼気試験(UBT)、単クローン体を用いた便中ピロリ菌抗原測定法のいずれかが推奨されています。
・第一選択:尿素呼気試験
・第二選択:便中抗原検査
・血中抗体検査は除菌判定には『不適切』
除菌療法後、PPI(プロトンポンプ・インヒビター)を服用しても良いですが、2週間以上服薬を中止した後に除菌判定を行います。これは、PPIがピロリ菌に対して静菌作用を有するため、偽陰性(陽性であるのに検査結果が陰性となる)となることがあるからです。
健康診断でピロリ菌抗体陽性を指摘され来院。胃カメラ検査で慢性胃炎を確認し、尿素呼気試験でピロリ菌感染を診断。1次除菌治療を行い、8週間後の除菌判定で除菌成功を確認しました。「検査も治療も思っていたより楽で、胃の調子が良くなった」とのお声をいただいています。
母親からピロリ菌感染を指摘され心配になり来院。胃カメラは抵抗があるとのことで、自費での尿素呼気試験を実施。陽性が判明し、その後胃カメラを受けて除菌治療を行いました。「若いうちに除菌できて安心した」と話されています。
他院で除菌治療を受けたが効果判定を受けていなかったケース。当院で除菌判定を行ったところ、実は除菌が不成功であることが判明。2次除菌治療を行い、無事に除菌成功となりました。
これらの事例から分かるように、年齢を問わず適切な診断と治療により、多くの方が除菌に成功されています。
除菌が成功しても、胃がんのリスクがゼロになるわけではありません。除菌に成功したからといって、胃がんなどの病気にならないわけではありません。ピロリ菌に感染している期間が長いと、胃の粘膜が正常に戻るのに時間がかかるからです。
2023年に改訂された日本ヘリコバクター学会のガイドラインでは、除菌後の内視鏡検査による経過観察(サーベイランス)の重要性が明記されています。
・除菌後も【年1回程度】の内視鏡検査を推奨
・萎縮性胃炎の程度により検査間隔を調整
・早期発見・早期治療のための継続観察
除菌による胃がん抑制効果は、皆さん驚くと思いますが、20代〜30代までに除菌すれば男女ともほぼ100%胃がんが抑制できると言われています。除菌による胃がん抑制効果は40代で90%、50代で70%、60代〜70代でも30〜40%の抑制効果があります。
除菌後も以下の点にご注意ください:
・塩分の過剰摂取を控える
・禁煙の継続
・規則正しい食生活
・アルコールは適量に
除菌後に再感染する確率は一年間で0.2%といわれていますので、殆どありません。しかし、完全にゼロではないため、不調を感じた際は早めにご相談ください。
ピロリ菌検査・除菌について重要なポイントをまとめます。
・【尿素呼気試験】が最も精度が高く、患者さんの負担も少ない
・年齢が高いほど感染率が高い傾向
・症状がなくても感染している可能性がある
・家族に感染者がいる場合は検査を推奨
・2024年改訂版では「治療」に関する項目の冒頭に、治療に関するフローチャートが掲載され、1~3次の除菌治療、特殊な除菌治療の流れがより明確となった
・1次除菌で約70-80%、2次除菌まで含めると97-98%の成功率
・7日間の確実な服薬が重要
・必ず除菌判定検査を受けることが大切
・【若年での除菌ほど効果が高い】
・除菌後も定期的な内視鏡検査が必要
・生活習慣の改善も重要
・日本の胃がん死亡率減少に大きく貢献
私は、ピロリ菌の検査・除菌は『胃がん予防の最も効果的な方法』だと考えています。気になる症状がある方はもちろん、症状がなくても年齢や家族歴を考慮して検査を検討されることをお勧めします。