Grand green
抗血栓薬を服用されている方にとって、大腸カメラ検査は『お薬の休薬』という重要な判断を迫られる検査の一つです。当院では、患者さんの基礎疾患とお薬の内容を十分に把握し、安全で適切な内視鏡診療を提供いたします。
抗血栓薬は心筋梗塞や脳梗塞の血栓塞栓症の治療や予防のために血液をサラサラにする薬で、出血し易いという副作用があります。大腸カメラ検査における課題は、【出血リスクの軽減】と【血栓症予防の継続】という相反する二つの要求のバランスを取ることです。
私たちが対象とする抗血栓薬は以下の通りです。
・抗血小板薬:アスピリン(バイアスピリン、バファリンなど)、クロピドグレル(プラビックス)、チカグレロル(ブリリンタ)など
・抗凝固薬:ワルファリン、DOAC(エリキュース、リクシアナ、プラザキサ、イグザレルト)など
これらのお薬は、『血をサラサラにする』効果により心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な疾患を予防していますが、同時に内視鏡検査時の出血リスクを高めるという側面も持っています。
内視鏡処置は出血しやすさ(出血危険度)と内服している抗血栓薬の数や種類によって休薬のルールが細かく設定されています。
・出血低危険度処置:観察のみ、組織生検
・出血高危険度処置:ポリープ切除術(ポリペクトミー)、内視鏡的粘膜切除術(EMR)
患者さんごとに血栓塞栓症のリスクを評価し、『高リスク』『中等度リスク』『低リスク』に分類します。この評価により休薬の可否と期間が決定されます。
当院では「抗血栓薬服用者に対する消化器内視鏡診療ガイドライン」に基づき、抗血栓薬の休薬について適切な対応を行っています。
・アスピリンは3~5日間、チエノピリジン誘導体(パナルジン、プラビックス)は5~7日間休薬が基本です
・抗血小板薬は内視鏡検査当日の朝から内服を中止し、検査終了後に服用することも可能です
・血栓症リスクが低い場合により安全な検査のため休薬を検討いたします
・休薬による血栓塞栓症が重篤なものになりやすいため基本的に休薬を行いません
・3日前~内視鏡検査当日のPT-INRの結果が必要となります
・DOACは内視鏡検査当日の朝から内服を中止し、検査終了後に服用します
・服薬時間から推定した血中濃度のピーク期を避けて処置を施行することが望ましいとされています
抗血栓薬の内服が1剤までであれば内視鏡治療が可能な場合もありますが、より安全を期すため休薬をご検討ください。2剤以上服用されている場合は、症例に応じて個別に対応いたします。
大腸カメラ検査でポリープが発見された場合、大腸カメラで抗血栓薬を飲んでいる状態ですとポリープ切除ができません。しかし、近年注目されている【コールドポリペクトミー】という手法により、一部のケースでは抗血栓薬を継続したままポリープ切除が可能です。
コールドポリペクトミーはスネア(いわゆる電気メス)に通電せず、専用の処置具でそのまま切除する方法です。
・腸管表面の浅い層を通電せずに切るため一時的に出血はしますが、浅い傷口で済むため術後の出血や穿孔が少ないとされています
・血液をさらさらにする薬を服用中の方でも、手術後の出血の危険が極めて低いと報告されています
・心臓ペースメーカーや金属製ステントを装着している方もポリープ切除を安心して行うことができます
・主に10mm以下の比較的小さなポリープが対象
・抗血栓薬(血液をサラサラにするお薬)を内服していない方が基本ですが、条件によっては服用中でも可能
従来のホットポリペクトミー(電気メスによる切除)は、切除中の出血は少ないものの、術後の遅発性出血や穿孔のリスクがありました。コールドポリペクトミーは切除時に少量出血しますが、数分で自然止血し、術後合併症のリスクが大幅に軽減されています。
当院では抗血栓薬を処方されている主治医の先生と密に連携を取り、休薬の可否と期間について相談させていただきます。患者さんの血栓症リスクを最小限にするため、十分な検討を行います。
ワルファリン服用中の方は、PT-INR値の確認が必要です。当院でも検査可能ですが、事前に測定していただくとスムーズです。
・検査のみ(生検なし):当日夕方から再開可能
・生検実施:医師の判断により翌日以降の再開
・ポリープ切除:切除方法と出血リスクに応じて個別判断
検査後1週間程度は、腹痛や血便などの症状に注意していただき、異常があれば速やかにご連絡ください。
エリキュース5mgを1日2回服用中の患者さん。健康診断で便潜血陽性となり、大腸カメラ検査をご希望されました。心房細動は薬物治療で良好にコントロールされており、血栓症リスクは中等度と判断いたしました。
検査当日朝のDOAC服用を中止し、午後の検査を実施。観察のみでポリープは発見されず、検査後2時間で薬剤を再開していただきました。検査から1週間後の外来受診時も、血栓症状は認められませんでした。
5年前に心筋梗塞を発症し、バイアスピリン100mgを継続服用中の患者さん。便潜血陽性で精密検査が必要となりました。主治医と相談の結果、血栓症リスクを考慮して休薬は行わず、薬剤継続のまま検査を実施。
検査で5mmのポリープを2個発見しました。コールドポリペクトミーにより安全にポリープを切除し、病理検査で腺腫と診断されました。術後の出血もなく、経過良好でした。
ワルファリン5mgとアスピリン100mgを併用している患者さん。下血のため緊急で検査が必要となりました。PT-INR値は2.8と治療範囲内でしたが、2剤併用のため出血リスクが高いと判断し、観察のみの検査を実施しました。
S状結腸に軽度の憩室炎を認めましたが、活動性出血はありませんでした。薬剤は継続のまま、保存的治療で症状は改善しました。
抗血栓薬を服用されている方の大腸カメラ検査は、【個別化医療】が最も重要です。患者さんごとに異なる基礎疾患、血栓症リスク、服用薬剤の種類と数を総合的に評価し、最適な検査方法を選択いたします。
【当院の基本方針】
・血栓症リスクを最優先に考慮した休薬判断
・主治医との密接な連携による安全確保
・コールドポリペクトミーを活用した低侵襲治療
・検査後の適切なフォローアップ
出血と血栓塞栓症という相反する二つの危険性の間で休薬による血栓塞栓症の危険性を最小限に抑えることを目標として、患者さんお一人おひとりに最適な医療を提供いたします。
抗血栓薬を服用中で大腸カメラ検査をご検討の方は、お気軽にご相談ください。丁寧な説明と安全な検査により、皆様の健康をお守りいたします。