Grand green
私は日々、多くの企業様の雇用時健康診断を担当させていただいておりますが、この健康診断は単なる法的手続きではなく、新しく職場に迎え入れる方々の健康を守るための重要な第一歩だと考えています。
雇用時健康診断(採用・入社前健診)とは、労働安全衛生規則第43条において「事業者は、常時使用する労働者を雇い入れるときは、当該労働者に対し、医師による健康診断を行わなければならない」と明確に規定されており、企業側の法的義務として位置づけられています。
・【目的】新入社員の健康状態を把握し、適正な業務配置や入社後の健康管理に活用
・【法的根拠】労働安全衛生規則第43条に基づく義務
・【違反時の罰則】労働安全衛生法第120条により50万円以下の罰則が科される可能性
・【対象者】常時使用する労働者(正社員・契約社員・パート・アルバイト含む)
雇用時健康診断の対象は「常時使用する労働者」ですが、これは正社員だけではありません。パート・アルバイトについても、雇用期間の定めはあるが契約の更新により1年以上使用される予定の者で、かつ1週間の所定労働時間が同種の業務に従事する通常の労働者の4分の3以上であるときは、健康診断を実施する必要があります。
・【正社員】全員が対象(試用期間中も含む)
・【契約社員】契約期間1年以上または1年以上の継続見込みがある場合
・【パート・アルバイト】上記条件かつ週労働時間が正社員の4分の3以上
・【特定業務従事者】有機溶剤業務や深夜業務の場合は6ヶ月以上雇用が見込まれる場合
雇入れ時健康診断の実施時期については、雇入れ時の直前又は直後とされていますが、具体的な期限までは明確にされていません。しかし、実務的には以下のタイミングが推奨されています。
・【入社前】内定から入社日まで
・【入社後】雇入れの前後3ヶ月以内の実施が望ましいと考えられる
・【配属前】適正配置や今後の健康管理に役立てるという目的から、できるだけ速やかに、遅くとも配属部署に配置する前に実施するのが望ましい
当院では、労働安全衛生規則第43条に基づき、以下の11項目について検査を行うことが義務付けられている健康診断を実施しています。
・【基本検査】既往歴・業務歴の調査、自覚症状・他覚症状の有無
・【身体測定】身長、体重、腹囲、視力、聴力検査
・【胸部検査】胸部エックス線検査
・【血圧測定】安静時血圧測定
・【血液検査】貧血検査(血色素量・赤血球数)
・【肝機能検査】AST・ALT・γ-GTP
・【血中脂質検査】LDLコレステロール、HDLコレステロール、血清トリグリセライド
・【血糖検査】空腹時血糖または随時血糖
・【尿検査】尿中の糖・蛋白の有無
・【心電図検査】安静時心電図検査
定期健康診断では医師の判断により一部の検査項目を省略できますが、雇入れ時の健康診断では全項目の実施が必須です。これは、新入社員の健康状態をベースライン(基準値)として把握し、今後の健康管理に活用するためです。
新たに雇用する人が入社日の直近3カ月以内に前職の会社や自身で健康診断を受けており、その診断結果を提出する場合、提出された項目については健康診断を行う必要はありません。ただし、注意すべき点があります。
・【項目確認】法定11項目すべてを満たしているか確認が必要
・【不足項目】不足している項目があれば追加受診が必要
・【書面提出】健康診断の結果を証明する書面の提出が必須
厚生労働省は、「労働安全衛生法等で事業者に義務付けられている健康診断の費用は、法により、事業者に健康診断の実施が義務付けられている以上、当然に事業者が負担すべきものとされています。」と明示しています。
・【企業負担】原則として企業が全額負担
・【保険適用外】雇入れ時健康診断の受診費用は保険適用外となります
・【費用相場】一般的に雇入れ時健康診断にかかる費用の相場は入社者一人当たり1万円~1万5千円程度
健康診断の結果は、健康診断個人票を作成し、それぞれの健康診断によって定められた期間、保存しておかなくてはなりません(安衛法第66条の3)。
・【保存期間】「雇い入れ時の健康診断」および「定期健康診断」の健康診断個人票の保存期間は5年
・【個人情報】健康診断結果は要配慮個人情報として適切に管理する必要がある
・【電子申請】2025年1月からは健康診断結果報告等の電子申請が義務化
健康診断の結果にもとづき、健康診断の項目に異常の所見のある労働者について、労働者の健康を保持するために必要な措置について、医師の意見を聞かなければなりません。
・【医師意見聴取】産業医や専門医からの意見聴取が必要
・【就業上の配慮】作業の転換、労働時間の短縮などの措置を講じなければなりません
・【継続的管理】定期的な経過観察や治療への配慮
雇用時健康診断は、労働安全衛生法に基づく企業の義務であり、従業員の健康管理の第一歩となる重要な制度です。私たち医療従事者の立場からも、この健康診断は単なる法的手続きではなく、働く方々の健康を長期的に守るための重要な出発点だと考えています。
企業の皆様には、以下の点を特にご注意いただきたいと思います。実施対象は正社員だけでなく、一定条件を満たすパートタイマーやアルバイトも含まれます。実施時期は雇入れの前後3ヶ月以内が望ましく、費用は全額事業者負担となります。
雇入れ時健康診断の結果は、その後の定期健康診断と比較することで、職場環境が従業員の健康に与える影響を評価する基準にもなります。このように、従業員の健康管理における出発点として重要な位置を占めているのです。